子供の泣く声がする。
それに気付いて、流山詩紋は歩みを止めた。頭から被っている衣が風に飛ばされぬよう、不用意に外れることのないよう、細心の注意を払いつつ、声の聞こえる方へと急いだ。
泣きわめいている、というものではない。いつ聞こえなくなってもおかしくないような、途切れ途切れの、か細く小さな声。それが逆に、切迫したなにかを感じさせた。山道を駆け上り、立ち止まり、耳を澄ます。それを何度か繰り返して、詩紋は、やっとその子を見つけた。
道のすぐ傍らの大きな木の根元。下草に隠れるように、子供は膝を抱えて泣いていた。ぼろ同然の粗末な衣服を身につけ、手も足も恐ろしいほど細い。全ての肉がこそげ落ちてしまったいるそれは、ほんの少し触れただけでも折れてしまいそうだった。けれど、なによりも詩紋を驚かせたのは、その子供の髪が、彼と同じ黄金のような色をしていたことだった。
「どうして泣いているの。その、なにかあったの」
子供に近付いて、詩紋は優しく声をかける。その子は肩を震わせると、恐る恐る顔を上げた。そこだけ青空が広がっているような青い、ビー玉のような瞳は、怯え、戦いていた。よくよく見れば、子供は血と泥で汚れ、全身傷だらけだった。古く跡が残っているだけのものや、明らかに刃物によってできたものまであった。
「ひどい」
詩紋は、溢れてくる涙を必死でこらえていた。
『はなづくし 春の巻』 「山吹」より
writing by 神月 縁